全員登山経験なし 山遭難、悪天候で甘い判断(静岡県)

静岡県川根本町の沢口山(1425メートル)を登山中だった男女5人から1日午前、「下山できなくなった」と知人を介して県警に届け出があった。県警ヘリコプターなどが捜索、5人が山の斜面に座っているのを確認したが、日没のため救助を断念。2日早朝から救助作業を再開し、5人全員の生存を確認した。
 県警によると、5人とも意識があり、午前中にもヘリコプターなどで救助するとしている。
 島田署によると、発見されたのは同県焼津市の会社員、吉崎由貴さん(24)と同僚の女性(26)のほか、静岡大大学院生の20代の男女3人=いずれも浜松市中区=の計5人。
 5人は10月31日、日帰りの予定で入山。1日朝、吉崎さんから「遭難しました」とのメールが知人にあったという。
5人は救出後、病院で記者会見し「霧の中で道に迷った」と説明。山の斜面で身動きが取れなくなり「寝たら死ぬと思い、仲間と何度も声を掛け合った」と話した。
「ハイキングに行こうという軽い気持ちで登った」。救助後の島田市民病院での会見で、5人は登山の理由をこう話した。
 5人が入山した10月31日は雨の降る悪天候。加えて、いずれも登山経験はなく、インターネットで「初心者向け、往復4~5時間」と紹介されていた情報のみで、沢口山に登ることを決めていた。県警が最低限の装備に挙げる地図やコンパス、非常食、十分な防寒具も携行していなかった。
 遭難した山中の気温約8度は、十分に低体温症に襲われる温度だ。低体温症は、判断力の低下を引き起こし、放置し続ければ、呼吸数が減って最終的には死に至ることもある。
 平成21年7月に北海道のトムラウシ山で遭難した8人が凍死した事故では、事故調査特別委員会による報告書によると、当時の山中の気温は約6度。だが、風速15メートルで体感温度はマイナス10度にまで低下するほど極寒の山へと変わっていたという。
5人は沢口山の山中で濃い霧に視界を奪われ、31日午後2時ごろに下山を開始。だが、「行きとあるものが違うと感じ始めたので、尾根まで戻り、再び下りると違う道だった」=遭難した大学院生、片山真宏さん(25)。
 その後、5人は登山道から2キロほど外れた急斜面周辺で、バランスを崩せば滑落のおそれのある中で身動きをせずに救助を待った。救助された会社員、岡崎沙世子さん(26)は「互いの顔がまったくみえず不安だった。寝ると死んでしまいそうなので、声をかけ合って体を揺すり合いながら過ごした」と2日間を振り返っている。
 登ってきた道を見失い「下れば沢に出て里に出られる」と過信して下山し、がけなどに直面して行き場を失うというのが、遭難の典型的なパターン。幸いにも身動きせずに救助を待ったことが、生死を分けたといえそうだ。
 「若いから助かったようなものだ」。県警救助隊員の一人は今回の事故を、死と隣り合わせの登山と断じる。その上で「天候が悪いときは登らないことが肝心。低い山だと思っても、山は山だ。秋は特に天候が急変する」と繰り返している。
(産経新聞)

2010/11/04
カテゴリ: 事故事例